Page: 1/1   
美しさの存在理由
0
     あの悪夢のような地震と津波から五日が過ぎた。

    今日も夕刊の一面で悲惨さを伝える黒枠白ぬきの巨大な見出しは、まるで葬儀の看板のようでいたたまれない。
    読まずに伏せてそのままにしておく。
    ささやかな平穏さも唐突に切り裂く「緊急地震速報」の傍若無人さは、新聞の見出しと同じくらい不吉に恐怖を煽る。


    正直なところ自分には、電気会社や政治家に怒りをぶつける正義感も、よりよい現実的な救援方法を模索する社会性も、みんながんばれと勇気づけるポジティブさもない(口に出してはみるけれど)。
    ここ数日はただぼんやりと悲しく、なすすべなく空っぽで、やるべきことはまるで手につかないでいる自分がいる。

    避難所で不安の中で支援を訴える人々、暗闇の瓦礫の下で救助を待っているであろう人々、焦燥にかられ殺到する人々、絶え間なくネットにつぶやき続ける人々、声高に煽るテレビの人々、

    膨大な情報と様々な感情が、否が応でも頭に流れ込んで来て飽和状態。自分の感情さえ聞こえない。


    だから今日はとうとう、ラジオを止めた。世界は急に静かになった。


    静かになった世界に、たまたまクリックしたアプリケーションから、突然ドビュッシーの「月の光」が流れ出した。

    乾いた土に染み込んでいく水のように、音はみるみる空気を時間の流れを変えて、空間と心をうっとりと潤した。
    一瞬すべての憂鬱がどこかへ消えてしまった。本当に。
    生まれてから今まで、今日ほど音楽が美しく聴こえたことはない。

    なぜ有史以来、一度も絶えることなく音楽が、色彩が、詩が、夢見るすべてのものが存在してきたのか。
    だってそんなもの、現実には何の役にも立たないのに。
    今日その答えがわかった気がする。

    霞でお腹はいっぱいにならないし、葉っぱのお金では何も買えないことはわかっている。
    音楽より燃料、詩よりも食料。それもわかっている。

    だけど、だから、こんなときこそ「美しきもの」が存在する理由がある。
    美しさと不謹慎さはコンフリクトするものではない。
    これは現実逃避だろうか?

    人間はアリの現実性と勤勉さだけで生きていける訳じゃない。
    危機的状況にあっても、人の心を本当に慰められるものはキリギリス世界のものなのではないだろうか。
    (ポランスキーの映画「戦場のピアニスト」の瓦礫のショパンは、えも言われぬほど美しい)

    もし被災地の人々に何かしてあげられるなら、なにか美しいものを送ってあげたい。
    音楽とか。
    今日は本気でそう思った。

    Claude Debussy: "Clair de lune(月の光)"
    | chiori66 | 23:25 | comments(6) | trackbacks(0) | - | - |
    ポール・ヘニングセンに会った話
    0
      突然思い出したのでメモ。

      今からかれこれ15年も前になるが、デンマークで2年ほど学生として暮らしていたことがある。
      その時にポール・ヘニングセン(1894〜1967・略してPH)と会ったことがある。ロングセラーの照明器具「PHランプ」のデザインで有名なデンマークの文化人だ。

      場所は、コペンハーゲン大学医学部のPanum Institute。解剖学の標本室。

      当時、同じ学生寮に住んでいた医学部の学生が、私がデザインの勉強をしているからといって、関係者以外立ち入り禁止の部屋に連れて行ってくれた。
      続きを読む >>
      | chiori66 | 02:09 | comments(7) | trackbacks(0) | - | - |
      2008年、とっくに明けてました。
      0
        あ!と気づいたら、もう2008年も2週間が経ってしまっていました!

        前回のエントリが9月。慌ただしく突っ走っている間に、すっかり浦島太郎状態です。
        10月に始まった北海道新聞の週イチ連載『北の小物たち』の取材&執筆を皮切りに、11月の「札幌デザインウィーク」でも展示やワークショップとあっちこっち走り回り(機会があれば、その様子もご紹介します)、年末にはセミナーをやり、年明け早々「kanata exhibition」出展…と、なんだか毎月イベント続き。やたら疾走感のある秋冬でした。

        さてさて、今年は何をやろうかな。と考えてみるも、
        基本的には2週間より先のことを考えられない性質なんですよねぇ(仕出し屋気質でしょうか)。
        とりあえず、自分が楽しく、関わっている人が楽しく、受け取る人も楽しい、というスタンスでやっていければ最高です。

        というわけで、今年もひとつヨロシク!
        | chiori66 | 01:08 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
        隠れた名品・隠れた名匠
        0
          取材のために、家具デザイナーの中村昇さんを訪ねた。

          中村さんは札幌在住で、家具のプロダクトデザインを専門にされている大ベテランだ。私の尊敬するデザインの大先輩でもある。

          旭川のカンディハウス(旧インテリアセンター)からも、数々の家具シリーズを発表しているが、なんと言っても中村さんの代表作は、スウェーデンのIKEAを代表する椅子『POANG(ポエング)』。

          今回はこの世界的ロングセラーのお話を伺うのが目的。興味深いお話を沢山聞くことができた。

          ポエングが発売されたのは、今からちょうど30年前の1977年。
          70年代初頭、スウェーデンで木工とデザインを勉強された中村さんがその卒業制作をIKEAに持ち込んだ。その作品は結局採用されなかったのだが、半年後にIKEAに入らないかと連絡があり、晴れて日本人初の社内デザイナーとなった。

          IKEAに在籍中の6年間に100以上のデザインをして、そのうち29が商品化。ほぼ3割バッターである。その中には、ポエングをはじめ今でもずっと販売されているソファKLIPPANもある。

          ポエングは発売した初年度で2万脚を売る大ヒットになり、累計ではこの30年間ではおそらくミリオンの数にのぼっているのではないだろうか。コピー商品も30を越える(らしい)。
          今見ると普通に映るかもしれないが、それは気にすることがなくても知らず知らずに目にする機会が結果として多かったから、ということかもしれない。

          ボエングが他の競合を引き離して生き残ったその理由は?と聞くと、デザインや座り心地はもちろんのこと、一つにはターゲットを絞ったIKEAの戦略、そして価格、カバーリングを外して洗濯できるという当時としては画期的なアイデア…などなど、
          つまりは色々な要素がピタッとはまったバランスの良いプロダクトだったということだろう。
          とは言ってもそれは決してまぐれ当たりではなく、やはり作り手の思いがたっぷり詰まった成果。よき仲間に恵まれたとはいえ、異国の地で1人で頑張っていた中村青年の姿を想像すると胸が熱くなります。

          当時の貴重なスケッチの数々を拝見。
          A4大のノートに、デザインのアイデアや丁寧に彩色されたパースがびっしりと描かれている。どれもよく練られ細部まで考えられたフレッシュなアイデアや形ばかり。とにかく、描いている量もすごい。上手いし。

          椅子のデザインなんて出尽くしてますよー、なんていうのはウソ。ものの形は無限にある訳だから、出尽くすなんてことはない。それは言い訳だよなー、と若き中村さんのスケッチブックを見てそう思った。それに比べたら、私ぜんぜん仕事してないです(反省)。

          そんな素晴らしいお仕事を残されているにもかかわらず、中村さんはとても謙虚な方だ。
          「金の斧?銀の斧?」と聞かれたら絶対「普通の斧です」とお答えになりそうな。

          控えめで、決して声高に主張することなく、誠実で丁寧でやさしいラインの家具。それは中村さんのお人柄の印象そのもの。
          いつか中村さんのお仕事をもっと多くの方に紹介できる機会ができればいいなぁと思っている。でも中村さん、きっと嫌がるだろうなぁ…。

          | chiori66 | 01:20 | comments(6) | trackbacks(0) | - | - |
          本屋徘徊。
          0
            用事で街に出たついでに、久しぶりに紀伊国屋書店に入った。

            しばらくぶりに美術書の売り場に立ち寄ってみると、信じられないくらい沢山のデザイン関係書があってびっくり。いまだかつて、日本でデザイン関連の本がこれだけ出版されている時代はなかっただろうな、というほど。
            ちょっとのつもりで、気づくと1時間くらい経過。
            続きを読む >>
            | chiori66 | 21:33 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
            俺流、リスペクト。
            0
              建築家フランク・ゲーリーのドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』を観ました。
              ゲーリーはヴィトラ・デザインミュージアムやスペインのビルバオ・グッゲンハイムの美術館などで世界的に有名な建築家。
              一度見たら忘れられないグニャグニャした外観が特徴的。

              実は正直言ってそんなに好きな建築家ではないけれど、映画は面白かった。

              続きを読む >>
              | chiori66 | 21:20 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
              気がつけば、冬。
              0
                窓の外の栗の木も、慌ただしく過ごしている間に秋を迎えてイガイガの実をつけ、気づけば葉っぱも落ちて、もう冬。時間の経つのは早いものです。せっかくの栗の実、お見せしそびれました。ザンネン。

                今年は、比較的のんびりしていた夏から一転、秋口から急にバタバタと忙しくなりました。現在いくつかのデザインを同時進行中。
                年末に向けて、目の回るような日々を過ごしています。

                一つは病院のソファ。とてもモダンでカッコイイ建築です。そこに似合うイスになるか、やや緊張ぎみ…(ドキドキ)。
                ほかにも客席や子ども用のイスなどなど、なんとなくイスづいている今日この頃。

                考えることと、それをアウトプットしていくスピード。なかなか追いつかないものですね。
                もっと速く動く手!もっと長い1日!!
                とりあえずサンタクロース殿、どうぞよろしくお願いします。

                みなさんにも、メリークリスマス!風邪などひかぬよう万全にね。
                | chiori66 | 03:42 | comments(0) | trackbacks(1) | - | - |
                買い物自慢
                0
                  今日の午後、事務所の近くまでおつかいに出かけたら、ばったり出会ってしまった。

                  電車通りを横切った丁度正面にある古物屋。「リサイクルショップ」と看板に書いてはあるが、あまりの怪しさに一度も立寄ったことはない。
                  道路を真ん中まで渡った向こう側の、こ汚いその店の外側に、無造作にそれはあった。

                  柳宗理デザインのバタフライスツール。
                  続きを読む >>
                  | chiori66 | 01:28 | comments(1) | trackbacks(0) | - | - |
                  デザインは楽しいな。
                  0
                    ここのところのひと月ふた月ほど、怠け者の私としては珍しく(?)次々といろいろ考えたり形にしたりしています。
                    そう、現在のマイブームは『デザイン』!(っていうか本職だろう!)

                    少し手が空いたのを機会に、今までやりたくても時間に追われて放ったらかしになっていたものを引っ張り出しては、練り直してみたりしています。
                    やらなきゃやらなきゃとMacの前で焦るといいアイデアも浮かばないけれど、心静かに模型のヤスリがけなどする心の余裕があると、次はあれもこれもとやりたくなってくる。こんなことは今まであまりなかった。やっぱり手を使うのはアタマにいいみたいだ。いい循環。
                    (ただし、手を使う派は時間がすごくかかる、と柳宗理さんも語っていた。なにしろそこが問題…)

                    今日は思い立って、構想かれこれ2年の時計を再始動・再検討。
                    これは実際はどんな風に仕上がるのかな、どういう商品にできるかな、など考えながら作業に没頭するのはまことに楽しいことです。

                    以前は結構苦行だった『デザインすること』が楽しくなったのは、以前より自分の考えが好きになってきたからかも。
                    いつもこんな心持ちで仕事ができたらいいなぁ。

                    ついでに、本来ブログはもっと日常的にカジュアルに書くものだったよなぁ…と思い直し、もうちょっとまめに更新してみようかと思います。どぞよろしく。
                    | chiori66 | 00:45 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
                    T定規の効能
                    0
                      今どきT定規である。このCAD全盛のご時世に。

                      T定規とは長い木製定規の先がTの字になっている昔ながらの製図道具だ。机(というか製図板)の角にT部分を引っかけて滑らせ、平行線を描く。
                      先を切り落とした十字架のような形をしている。日なたでバンバンと使う布団叩きにも似ている。

                      なぜか子供の頃から家にあって(おそらく昔グラフィックデザイナーをしていた母の持ち物だったのであろう)こっそり"交通事故でケガをした悲劇のヒロインごっこ"の松葉杖にも使っていた。思えば長いおつきあいである。

                      しかし今どき、デザイナーはT定規なんぞ使わない。
                      T定規どころか、普通の定規だって使わない。ビシッとクリーンな机の上でキーボードとマウスを使って図面を描く。もちろん消しゴムくずなんて前世紀の遺物である。
                      パソコンを使わない人だって、せめてドラフターや平行定規くらいは使うだろう。私だって一応パソコンで図面を描くけど…(超ド下手です)。

                      でも私はT定規が好きなのだ。
                      続きを読む >>
                      | chiori66 | 18:47 | comments(4) | trackbacks(0) | - | - |

                      Calendar

                        12345
                      6789101112
                      13141516171819
                      20212223242526
                      2728293031  
                      << August 2017 >>

                      Profile

                      Recommend

                      Search

                      Entry

                      Comment

                      Trackback

                      Archives

                      Category

                      Link

                      Feed

                      Others

                      無料ブログ作成サービス JUGEM

                      Mobile

                      qrcode